時代は変わった? 海外から見た日本の仕事量と忙しさ
「長時間労働」「残業」「過労」「ブラック企業」…
こうした労働に関するネガティブな言葉が浸透している日本。
毎日のように残業し、周りの迷惑を考えて有給休暇も使えない、なんていう働き方が当たり前な方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、新型コロナウイルスの影響など時代の大転換を迎えた2020年代、日本の働き方もどうやら変わりつつあるようです。
世界の残業時間や有給取得率といった数値に着目しながら、日本の「忙しさ」について考えてみました。
労働時間の違い
まずはみなさんが一番気になるであろう、世界各国の労働時間を見ていきましょう。
OECD(経済協力開発機構)の2022年のデータによると、44か国を対象とした1年あたりの労働時間ランキングは以下のようになっています。
1位 コロンビア 2,405時間
2位 メキシコ 2,226時間
2位 コスタリカ 2,149時間
4位 チリ 1,963時間
5位 韓国 1,901時間
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30位 日本 1,607時間
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42位 ノルウェー 1,425時間
43位 デンマーク 1,372時間
44位 ドイツ 1,341時間
44か国中30位という結果を見て、「あれ、意外と日本の労働時間って短い…?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
過去数十年の流れとしても、日本の労働時間は2,000時間以上あった1990年代から右肩に下がり続けています。業務効率化の技術の進歩や働き方の改革の成果とも言えるかもしれません。
しかし、この減少には他の要素が含まれていることを忘れてはいけません。
例えば、この労働時間には正規雇用者よりも短い時間で働く非正規雇用者の労働時間も計上されています。日本では非正規雇用者の割合が増えているため、必然的に労働時間が減少していっているとも考えられるのです。
とは言いつつも、バリバリ働いていたあの時代よりも労働時間が減ったと実感する方も多いはずです。
個人の労働時間は、大幅にではありませんが、徐々に少なくなっているのではないでしょうか。
残業時間の違い
労働時間とセットで考えられるのが、残業時間です。
国内最大級の社員クチコミサイトOpenWorkによる働きがい研究所の調査では、2023年の平均残業時間は月23時間ほどでした。ひと月の出勤日数は基本的に23日ほどですから、毎日1時間の残業をしていることになります。
では、他の国の人たちはどれくらい残業しているのでしょうか?
例えばフランスでは、週35時間の通常労働に残業4時間をプラスした週39時間労働での雇用契約が一般的なようです。もちろんどの企業もその通りにはいかないかもしれませんが、基本的にこの時間を超える仕事はしません。
実際に先述したランキングでも、フランスは日本よりも100時間ほど短い労働時間で44か国中35位に位置しています。日数にすると1年で4,5日も違いがあるんですね。
有給取得率の違い
続いて見ていくのが休みの日、すなわち有給休暇についてです。
世界的旅行会社エクスペディアが実施した2022年の有給休暇・国際比較調査によると、日本の有給取得率は世界16地域中なんとワースト2位。
最下位のアメリカの35%に次いで、60%という結果になっています。
日本と同等以上の有給休暇が決められている欧米各国では75%以上が当たり前のようで、中でもドイツは30日という比較的多めな有給休暇日数の90%取得という高い消化率を誇っていました。
最新のデータではありませんが、日本はかつて「自分に与えられた有給の日数を知らない人の割合」「有給を取ることに対して罪悪感を感じる人の割合」でも世界1位にランクインしていたようです。
身に覚えがある方も多いのではないでしょうか?
仕事に関する価値観の違い
さて、ここまで仕事にまつわる数値的な違いをお伝えしてきましたが、この違いは一体どこから来ているのでしょうか?
みなさんもピンと来ているかもしれませんが、根底にあるのは価値観の違いです。
ホフステードの6次元モデルという世界の国民文化・価値観の違いを表すフレームワークをご存知でしょうか。
・権力格差
・個人主義と集団主義
・男性性と女性性
・不確実性の回避度
・長期志向と短期志向
・人生の楽しみ方
という6つの指標に基づいて、各国どのくらいのスコアになるかというのを比べられるのです。
気になる方はぜひこちらから調べてみてください。
今回は、日本とヨーロッパの中でも話題に挙げたフランスとドイツと比べてみます。
この3か国で日本が特徴的なのが、
・集団主義に近い
・目標達成を重視し働くために生きるような男性性が強い
・不確実なことを回避しがちである
・努力を続けられる長期志向が強い
といった点です。
例えば、フランスやドイツなどのヨーロッパでは、基本的に個人主義が浸透しています。
その人が何をしてどんな結果をもたらしたかという、言い換えれば成果主義で評価するのが当たり前です。
一方日本では、仕事の成果そのものより、忙しそうに働く姿を評価する文化がある企業も少なくありません。
この価値観の違いは、当然労働・残業時間の捉え方にも少なからずつながっていると言えるでしょう。
ヨーロッパでは個人主義に基づいた「この仕事を終わらせたら帰る!」という考えが根付いていて、残業している人は仕事ができない人とまで思われてしまうこともあります。
対して日本は、長く働けば働くほど勤勉だとされる文化がまだ残っています。周りの様子を見て自分も残業するかどうか判断する人が多いのも、集団主義の良い面と悪い面の双方をはらんでいると言えるでしょう。
上記のスコアと直接は関係しませんが、休みに関する価値観もかなり異なります。
ヨーロッパ他、海外の方にとって休暇といえば、夏と冬に2,3週間ずつなどのまとまった休みを指します。
日本では夏季・年末年始休暇でも1週間ほどで、有給休暇は1日単位の細々とした休みに充てる人が多いでしょう。
しかしここは、祝祭日の数という要素も大きく関わってきます。
日本は世界でも有数の祝祭日が多い国で、他国は自ら休みを取らなければ連休などありません。
そうした環境だからこそ、誰かが休んでも良いようなある程度の分業体制が整っているのです。
これからも変わり続ける日本の働き方
数値にも表れている通り、社会とその意識の変革を経て、日本の働き方は良い方へと変わってきているとも言えます。
まだまだ企業による差はありますが、リモートワークやフレックスタイム制などの労働時間、育児や介護といった休暇の在り方への意識も高まってきています。
個人の価値観が変わったとしても、みなさんと関わるような同僚や上司と部下、クライアント先の企業、家族など、社会全体の価値観はすぐには変わらないでしょう。
働くために生きるのか、生きるために働くのか。どちらが正しい、正しくないとは言い切れません。
それでも、今よりも良い新しい働き方を提案する企業や共感する人が増えていけば、日本人の「忙しさ」も少しずつ変化していくのかもしれませんね。
参考文献
・資産形成ゴールドオンライン, 「世界主要国「労働時間」ランキング…日本は44ヵ国中30位だが、それでも「働きすぎ」の日本人の実態」, 2023年6月27日更新, https://gentosha-go.com/articles/-/52329?page=1