“中国G20サミット”で決まった5つの重要項目と明らかになった世界と日本の関係

“中国G20サミット”で決まった5つの重要項目と明らかになった世界と日本の関係

世界のGDPの9割、世界の総人口の2/3を代表する国々が参加するG20。

2016年、11回目となるサミットは中国の杭州で開催されました。

今回は、サミットに参加した各国の立場、サミットにて決まった重要事項5つまとめにつづいて、結果的にその重要事項がどのように日本に影響を及ぼしていくのかをお伝えします。

1.各国の立場

<中国>

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今回のG20の開催国となる中国。

習近平国家主席としては経済大国としての国際的地位の確立を目指していますが、経済成長が進む一方、安くて大量の中国製品は、かつて日本製品がそうであったように、世界各国から問題視されています。

中国の輸出品に対するG20加盟国の反ダンピング措置は2010年から47%増加しており、例えばアメリカでは中国の鉄鋼製品に522%の関税を掛けることを決定しました。

中国としては立場の強化だけでなく、このような関税措置の緩和を狙って、今後の更なる経済成長の余地を確保したいという思いがあります。
また、旧西側諸国が緊張度の高まる東シナ海の領土・領海問題を議題に上げることも警戒していました。

<アメリカ>

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オバマ大統領の中国到着時のタラップ事件や、プーチン大統領とのあまり友好的とは言えない会談の様子ばかりが報道された今回のアメリカ。

経済問題というよりもシリア情勢、米露関係などの「外交問題に関する各国首脳との会談の場」ということが重要視されたようです。

中国に対しては東シナ海の領土・領海問題、韓国へのTHAAD(弾道弾迎撃ミサイル)配備問題など軍事的なわだかまりを抱えた中での参加となりました。

新華社通信によれば米中首脳会談では、「中国はあくまで東シナ海を譲らず、韓国へのTHAAD配備には反対する」と習近平国家主席より伝えたそうで、今後の米中関係がどうなっていくかは不安の残るところです。

<日本>

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日本としては、経済政策はもちろんのこと、日中中間線付近でのガス田開発、東シナ海問題が焦点とされていた今回のG20。

中国に対して一定の主張を行ったものの、今のところ双方の議論は平行線となっています。

元々あまり前向きな議論は期待されていなかったとも言われており、言うべき部分は伝えたという結果です。

最終的には双方、「マイナスを減らしてプラスを増やしていこう」という言葉で締めくくって会談を結びました。

<EU>

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イギリス離脱後の金融市場の混乱から一端の落ち着きを見せているEU。

今回のG20では今後の経済成長に関する問題と、難民問題の解決がメインとしていました。

また、テロ組織の資金源を断つべく、世界中の租税回避対策にも積極的です。

今回はそれらの問題に関して一応の合意に至った一方、次回開催予定国のドイツの新聞からは、次回に向けた数値的目標に欠いているなどの指摘も出ています。

2.特に重要視された議題

今回のサミットで特に重要視された議題は5つ。

租税回避問題への対策、反保護貿易主義、経済成長のための財政刺激策と技術革新の必要性、ポピュリズムへの対抗、難民支援の強化」(ル・モンド紙)
でした。

●租税回避問題への対策

パナマ文書の公開を受けて議論が活発になっている租税回避問題ですが、今回のG20でも議題の一つとなりました。

最終的には、経済協力開発機構(OECD)によって進行中の、多国籍企業や富裕層による租税回避を防止するための取り組みを歓迎する…ということで一致しました。

この取り組みそのものは2016年6月に発表されていたもので、2017年7月までに租税回避対策に協力的ではない国と地域のブラックリストを作成し、リストに載った国に対しては制裁措置も検討されています。

租税回避対策に向けて強力な枠組みが出来つつありますが、一方でEUとアメリカはアメリカ企業への課税問題で対立を表面化させています。

アイルランドはアップル社の誘致のために優遇的な税制を取っており、同国の法人税率が12.5%であるところ、アップル社が実際に納めていたのは0.005%程度。極端な優遇が問題視されていました。

EUの欧州委員会はアイルランド政府に1.5兆円の追徴課税を行うよう求めており、これにアメリカなどが反発しています。

昨年はオランダで優遇税制を受けていたスターバックスが違法と判断された他、ルクセンブルクでのマクドナルドの優遇も問題とされており、アメリカとしては自国企業が狙い撃ちにされているという不満があります。

租税回避問題の対策のためには世界的な協調が不可欠ですが、第一位の経済大国とEUの軋轢が解決されない限り、道のりは遠いかもしれません。

●反保護貿易主義

反保護貿易主義の動きが必要であるという声明にG20は同意し、金融危機の発生後に台頭した保護貿易主義は世界経済の長期的な成長を妨げるものであり、2018年末まで、新たに保護貿易主義に繋がる措置を講じない、あるいは減らしていくものとされました。

新興国の経済成長などに強力な後押しとなることが予想されますが、この合意が適切に履行されたとすれば、おそらく最も利益を得ることとなるのは、高い関税率に圧迫されている中国経済であり、この点において中国は今回のG20における最重要目標を達成したと言えるでしょう。

●経済成長のための財政刺激策と技術革新の必要性

金融緩和だけでなく、更なる政府支出を拡大させることが合意されました。

従来の金融緩和のみでは安定した経済成長は得られないとされ、余力のある国が大胆な財政刺激策を行うことを求めるものになります。

しかしながら、特に財政に余裕がある国としてIMFに名指しされたこともあるドイツはあまり乗り気ではないようで、その他の国も成長率が落ちる中で更なる財政出動は難しいのかもしれません。

また「技術革新に牽引された成長計画も、継続的な経済成長に向けての中心的役割を担うことになる」とされており(G20イノベーション行動計画)G20参加国は“実践的行為“によって技術革新を喚起するべきであるとされています。

今後、国内においては新技術分野への投資や、政府からの支援が拡充していくことが予想される他、世界各国で革新的技術を持つ企業の誘致の動きが強くなることが予想されます。

●グローバリゼーションに反するポピュリズムへの対抗

安い輸入品の増加や多国籍企業の進出、地域固有の文化の希薄化などもあって、特に各国の労働者層から批判されることもあるグローバリズムですが、G20では反保護貿易主義を掲げているように、国家ごとの経済の間の壁を取り払う動きが出ています。

ポピュリズム(大衆迎合主義)は多くの場合グローバリゼーションの流れに反抗するものとされますが、G20では国際貿易が促進されることによる利益を強調することでポピュリズムに対抗するという合意に至りました。

IMFのラガルド専務理事はG20閉幕後の記者会見において、自由貿易は生産性を向上させ貧困問題を解決するものであると述べ、それに反抗するポピュリストを説得するために、より自由貿易の利点を明確にしなければならないと続けました。

例えば中国では、中産階級が創り出されたことによって7億人が貧困から脱することになったと言います。
クローバリズムは一部の人間ではなく、全ての人間が得するものであるという認識を広めることが今後の課題となりそうです。

●難民保護の強化

未だに止まるところを知らない中東の混乱の影響で、難民の流入も続いています。

G20では参加各国に対して難民危機に対する“支援の強化”を求めました。

これを受けて9月19日午後に安倍首相は、今後3年間で約2800億円を拠出する方針を表明した他、難民ら100万人を中心とした教育・職業訓練を施し、別途世界銀行に約100億円を拠出する旨を発表しました。

3.G20が今後日本に与える影響

自由貿易の推進から難民保護の強化までが発表されたG20ですが、今回の会合は今後の日本経済にどのような影響を与えるのでしょうか?

<国際外交への影響>

東シナ海領土問題などの外交問題よりも経済問題が優先して議論されたことと、その経済問題の議論においても自由貿易の促進という部分において中国の今後の経済成長が保障されたことによって、中国は発言力を増したと言えるでしょう。

また、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の今後にも注目したいところです。

カナダは経済的メリットを鑑みてかAIIBへの加入を決め、それを含めればメンバーは58ヶ国。さらに30ヶ国で加盟を希望しているとされ、もしそれが事実であれば日米主導のアジア開発銀行(ADB)の67ヶ国を上回る可能性があります。

先進国中AIIBに加盟していないのは日本と米国のみであり、報道などでは先進国が分断される狙いが指摘されることもあります。

存在感を増す中国との関係は、これまでにも増して重要課題となっていくでしょう。

<国内経済への影響>

外務省より公開されている、G20サミットの配布資料「日本の成長戦略」では、日本の課題は

・少子高齢化による労働人口の減少
・国際経済、特に新興国の先行き不安

として、これらに対抗するために更なる改革が必要であり、そのためには企業の内部留保を設備投資・技術革新・人的資源開拓に振り分けることが肝要であるとしています。

今後は特に、このような施策を実施していくと掲げています。

・IoT、ビッグデータ、ロボット技術を活用した第四次産業革命の実現

・再生可能エネルギーの普及促進、ネガワット市場の2017年までの創出

・ファッション、観光、健康、IT産業とスポーツ産業の提携促進

・企業から大学および研究機関への投資額を三倍に増加させることによる技術革新の推進

・プログラミング教育の必須化、優秀な外国人材への永住権付与などによる人材確保

・非正規労働者の賃金向上、長時間労働習慣の是正、高齢者雇用の促進などの働き方改革

これらの施策は今回のG20の内容からはそう変わるものではないので、基本的にこの成長戦略の路線は保たれるものと考えられます。
日本の成長戦略を含めた日本の現在の状況を5つの議題と照らし合わせると、このようになります。

●租税回避問題への対策:6月に京都で行われたOECD租税委員会にて、対策を行うことに合意済み

●半保護貿易主義:TPPに向けての動きを更に加速させる(安倍首相)と宣言済み

●財政刺激と技術革新:日本の成長戦略通りに、第四次産業革命を目指して投資を促進させる

●ポピュリズムへの対抗:特に施策として打ち出すような性質のものではない

●難民保護の強化:約2900億円の拠出を決定済み

既に施策が決定済・進行中であることから、短期的に見て大きく経済の動向が変わっていくことはないかと思います。
ただ、長期的に見て、自由貿易・グローバリズムの促進による国際競争の激化、海外からの人材の流入によって、下記の変化を強いられるでしょう。

企業
コストカットと併せて技術革新による付加価値の創出によって競争力を強めることが必要になる。
世界中を市場として見て、どこか一国の経済が不安定になっても別の国との取引が続くようなリスクヘッジの方策を準備する。

人材
比較的人件費の安い人材が流入してくることに危機感を持ち、語学力や専門知識を身につける。
高いスキルを持つグローバル人材として代えの効かない人材となることを目指す。

次回のG20は2017年7月7月からが予定されていますが、その時はまたニュースなどをチェックし、今後の動向を予想して動けるようにしましょう。

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