日本人にとって煩わしいチップ制度。米国内で廃止か
日本人には馴染みのないチップ制度ですが、米国内で廃止運動が起こっているようです。チップという定義が曖昧な制度が未だに続いているのも驚きですが、このチップ制度廃止運動の背景には何があるのでしょうか。
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新興ハンバーガーチェーン「シェイク・シャック」を手がけるUSHG
2015年11月に日本上陸を果たしたハンバーガー店「シェイク・シャック」は、「現代のバーガースタンド」をコンセプトにバーガー類だけでなく、デザートやアルコールなども提供する振興ハンバーガー店です。同店を運営するUSHGが、グループ内のレストランのチップを廃止する方針を発表しました。USHGのオーナー、ダニー・マイヤー氏はチップを廃止することで、1,8000人の授業員の報酬が均等化されるとしており、「調理や食器洗いの担当係が重要な貢献をしているのにも関わらず、彼らにチップはシェアされていない」と説明しました。
米国内のチップ制度の現状
米国内のチップ文化の現状を見てみましょう。
接客係の給料は非常に低く、政府が定める最低賃金は時給約870円(7.25ドル)です。
ところが、米国内での一部では合法的に時給約255円(2.13ドル)の低賃金労働がまかり通っている状況で、物価がもっとも高い都市のひとつであるニューヨークでも接客係の時給は約600円(5ドル)です。
これは東京都の最低賃金907円(平成27年10月1日発効)と比べても、大きな差があります。
レストランならチップの目安は食事代の10〜20%といわれています。
タクシーなら運賃の15〜20%、ホテル宿泊はベルマンなら荷物の大きさや個数によって、1個につき2〜3ドル、ベッドメイキングなどは枕元に1〜2ドルが目安です。
そのため接客係にとってチップは、賃金を他のスタッフと同水準まで引き上げるための重要な収入源となっています。そもそもチップは接客の質に対する評価として客が支払うものでしたが、実際にはチップを加えて初めて最低賃金程度の時給になることがほとんどでチップは生活の糧となっています。出す側と受け取る側のチップの捉え方の差により、チップがもらえなかった場合、生活がままならない接客係が多いのも実情です。
一方で米国では供給レストランのチップの平均がここ10年で代金の15%〜20%超に上がっているのにも関わらず厨房の従業員の給料はほとんど変化がない状態です。客と直接会話をするきっかけが少ない厨房の従業員は、接客係との収入の差も多くなり不満を感じる者も少なくありません。かといって、チップを全体でシェアする店では実入りの減る接客係が訴訟を起こすケースもあり、問題は深刻化しています。
チップ廃止論
マンハッタン市内で銘店と名高いすし店「スシ・ヤスダ」では、2013年以降チップ廃止をしており、レシートには日本の習慣に基づき、十分な給料が支払われているためにチップを遠慮する旨が書かれています。また「居酒屋リキ」でも廃止するなど、日本料理店を中心に廃止の動きが顕著になっています。
一方でチップ制度を古いものと批判するところもあります。ニューヨーク有名シェフが展開する「クラフト」ではランチタイムのチップ廃止を打ち出しました。CNNの取材には「チップのために働くという考えは過去のものだと思う」と述べています。米国オンライン紙「スレート」では、レストランの請求に加えて20%ものチップを払うことを悪しき習慣としており、客、従業員双方によって良いことがなく、人種差別を助長していると述べています。
チップ廃止論が進められる理由
チップ廃止論が高まる背景のひとつに、現代と過去の支払い方法の移り変わりが挙げられます。ほとんどが現金払いの時代は、チップ制度に店と従業員のすべてに利点がありました。しかし現代ではクレジット払いが増え、現金取引が少なくなりました。客はカードとともに署名欄にチップの金額を記入するので、チップがお店の収入になってしまうことも懸念されているのです。
これに対し、オバマ政権では最低賃金を上げる政策が打ち出されています。現在連邦政府が定める最低賃金は時給7ドル25セント(約870円)ですが、チップを受け取る従業員の最低賃金はこれとは別に定められています。その金額は時給2.31セントで約255円と最低賃金の半額以下。この水準は通常の最低賃金よりも長く、20年間もの間据え置きの金額です。また各国の最低賃金を見てみると、オーストラリアは17.29豪ドル(約1,485円)、フランス9.61ユーロ(約1,296円)、ドイツが8.50ユーロ(約1,146円)などと大きく開きがあります。チップありきの最低賃金は現代となっては、過去のものと考えるべき意見があります。
チップ制度を存続した方がいい理由
しかし、長年米国内で築かれたチップ制度は今更ゆるぎにくいものであることでしょう。全米レストラン協会は、チップ制度は飲食業界の何百万人もの従業員や店から強く支持されているとしており、今更チップ代金をサービス料として組み込んだりすることはメニュー価格の値上げと受け止められる可能性が大きいとの声も挙っています。同様にこれまで高くチップを加勢できた従業員のやる気をそぐかもしれないと懸念されてもいます。
まとめ
全米で議論されているチップ制度廃止の是非ですが、長年の慣習となってしまっている以上完全なる廃止は難しいことでしょう。せめて米国内の最低賃金の底上げなど、チップだけに頼らない従業員の雇用待遇の改善が進むことを祈るばかりです。