事例で解説!越境ECでの海外展開の進め方【入門編】
■本記事の項目■
1.そもそも越境ECサイトとは何か
2.越境ECのメリット・デメリットと、成功事例・失敗事例
3.越境ECのデメリットと失敗事例
4.有名ECサイトと共に見る各国EC事情
5.越境ECを始めるには? 例:天猫国際に出店する場合
6.ECで売るのに向いている商品
自社の商品やサービスを海外展開させていくにあたって色々な方法がありますが、特に今注目されているのは“越境ECサイト”を活用しての海外展開です。
敷居が低い、始めやすいと言われる一方で、全然売れないと弊社に相談される日本企業様も多いことは事実です。
そこで越境ECのメリット・デメリット、実際に越境ECサイトを始めるとしたらどういうところから手を付ければいいのか、どんな商品であればECサイトが向いているのかを徹底的にまとめました。
目次
1.そもそも越境ECサイトとは何か
ECとはElectronic Commerce、電子商取引の略語ですが、“越境”ECとは、国境を跨いでのオンライン上での商取引全般を指す用語です。
身近なところで言えば、日本在住の人間がアメリカのAmazonや、eBayといったサービスを通して物を買うのが越境ECと言えますね。
この形態でのビジネスは近年急速に成長しています。
市場規模を把握するために、経済産業省のデータを見ていきましょう。
経済産業省は毎年、「電子商取引に関する市場調査」を行っているのですが、そこで国内のEC市場の規模だけでなく、日本・米国・中国それぞれの国の消費者の、別の2国からの購入額も明らかにしています。
(出典:経済産業省「電子商取引に関する市場調査」)
この表によると例えば隣国、中国が日本から越境ECで購入している額は約8,000億円と分かります。
前年は6464億円だったので、31.2%の早いペースで市場が拡大していることが見て取れますね。
経済発展とIT技術の進化を背景に年々拡大する越境EC市場は今後も伸びていくでしょう。
日本から米国・中国、そしてインドやASEAN諸国に進出するケースも増えてきましたが、越境ECのメリットを活かして成功したケースや、逆にデメリットに負けて失敗したケースがあります。
次はそのようなケースから「越境ECで何を活用すべきなのか、何に注意すべきなのか」を紹介します。
2.越境ECのメリット・デメリットと、成功事例・失敗事例
まずメリットや成功事例などプラスの面から見ていきましょう。
【規模感が大きい:もともとの市場の大きさを活かしたビジネスが可能】
平成26年末総務省「平成26年通信利用動向調査」によると日本のインターネット普及率は約83%です。
インターネット人口に換算すると1億18万人になり、国民の10人に8人以上の人たちがインターネットを使っていることになります。
(出典:総務省「平成26年通信利用動向調査」)
世代別に見たインターネット利用状況は13-59歳の9割以上が利用しています。
(出典:総務省「平成26年通信利用動向調査」)
これに対してECサイトが急激に普及している隣国中国のインターネット普及率は約48%です。普及率だけ見れば83%の日本は中国より優れた市場のように感じませんか?
ところが、インターネット人口に換算すると日本の1億18万人に対し、中国は6億5千万人となり、中国の方が圧倒的な規模感を持つ魅力的な市場と言えます。
中国はこの規模感を活かしたECビジネスが現在急激に伸びているのです。
【日本ブランドの強さ:国のブランドを背景に差別化ができる】
元々、日本発の売れ筋商品のメインは”電化製品“でした。
しかしながら、近年では中国製・韓国製の電化製品も、特に遜色のない質となり、
それでいて価格も安いために高価格の日本ブランドは押され気味です。
そんな中で日本ブランドという強みを活かせるのが、
“口に入れるもの、肌に塗るもの(触れるもの)“です。
人体に直接関わる商品は信頼と安全性から日本の商品が選ばれ続けているのです。
例をあげるとお菓子や健康食品、ベビー用品や化粧品、美容家電などが挙げられます。
中国での需要の高まりを受けて、転売するために日本やオーストラリアなどの近隣諸国でベビーミルクやおむつを仕入れる人がいる……
とニュースになっていたこともありました。
未だにその需要は存在していますし、今後はASEAN諸国での需要が増えていくことが予想されます。
【始めやすい:法人設立などと比べれば手間いらずに海外進出できる】
一昔前までは海外のECサイトに出店するのにも現地での法人登記が必要だったのですが、中国の天猫国際・京東全球購のように最初から「越境EC」としての使用を前提としたサービスが整備され、日本国内から越境ECだけに集中して海外展開することが出来るようになりました。
サポートのための人員や流通網の確保など、ある程度の手間とコストは掛かりますが、それでも海外法人・支店設立することに比べれば低コストで海外進出できる有力な施策といえるでしょう。
越境ECの有名な成功事例の一つとして
『中国の天猫国際(T-mallの越境ECサービス)に出店するキリン堂』
があります。
関西を中心に展開するドラッグストアチェーンで2014年3月に越境ECに出店し、1年半後の2015年11月11日”独身の日”には4億5千万円を売り上げました。
先述の日本ブランドの強さというところで化粧品などの需要が高いことを説明しましたが、キリン堂ではシャンプーやハンドクリームを主力にしつつ
●正規品だということを証明する証書を掲載する
●化粧品メーカーと提携してキリン堂でしか買えない商品を展開する
といった施策で中国の顧客の心を掴んだようです。
※独身の日:T-mallを持つアリババグループの商標で、中国最大のオンラインショッピング祭りの日。2014年には日付が変わって71秒後には売上総額が1億元=19億円、38分後には100億元=1900億円を超えた)
3.越境ECのデメリットと失敗事例
次にデメリットや失敗事例などマイナスの面を見ていきます。
【顧客対応の難しさ:専門のスタッフを雇用することが必要】
特に中国やタイなどの国では、「購入前にしっかり疑問点を解決する」という意識の高い消費者が多いため、チャット形式でのリアルタイムな問い合わせ窓口を解説することが必要となります。
これは顧客対応上必要というよりも、ECサイトに出店するのであればそのための必要条件として記載されている場合も多く、場合によっては24時間体制で対応できるよう、外国人スタッフを複数名雇用することが必要になるかもしれません。
専門的知識の必要な商品だと難しいのですが、大手メーカーの化粧品といった広く流通しているものであれば、コールセンターに外注するといったことも考えられます。
どちらにせよコストがかかることは避けられないでしょう。
【スムーズな発送が難しい:発送から通関までのノウハウが必須】
海外ECサイトでは「◯日以内に発送作業を完了させること」といった規約を設けていることも多くあります。
そのため、在庫を持たないタイプのビジネスは難しいかもしれません。
また、通関業務に関しても事前にある程度の経験がないとスムーズな通関は難しいので(最悪の場合は予想以上に関税がかかる場合なども)内部で十分な経験を持つ人材を確保するか、外注する必要もあるでしょう。
【在庫管理の難しさ:注文≠絶対買う】
よくあるトラブルとして、日本よりも銀行振込などが多いゆえに”顧客が商品を発注だけしてそのまま振り込みをせずにほったらかし“というものがあります。
日本のECの場合は注文したら9割9分の人が支払うことを前提としたシステムになっているため、注文が成立した段階で在庫を抑えているのですが、大多数の顧客がこのような行動を取ってしまうとおさえていた在庫が無駄になってしまう場合があります。
被服や旬のものなど、売れる時期に在庫を全て捌いておきたいような品物だと勿体無いですね。入金に期日を設けるなどの施策が必要になります。
以上3つのデメリットを挙げましたが、今のところ直接これらが原因になった失敗事例といえるほどのものは出ていません。
ただ、最新の事例から見て、上記3つ以外に気をつけるべきは”税制の問題“です。
中国では2016年4月から越境ECを対象とする新税制が始まり、保税区経由の越境ECに関して従来は課税対象ではなかった品目が課税対象となったり、通関証明書の提示が必要になったりといったこともあり撤退を迫られる企業もあります。
新税制の移行前と移行後で越境EC関連の輸入量が7割ほどまで減少したという報告もあり、このような急な制度の変更にも気をつけなければなりません。
4.有名ECサイトと共に見る各国EC事情
越境ECのメリット・デメリットとその活用方法をお伝えしたところで、次は日本企業も多く出店する、各国のECサイトについてご紹介します。
Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどがインターネット黎明期から今に至るまで日本で不動の地位を保っているのと同じように、これらのECサイトは10年後も各国のEC市場を牽引する存在であることが予想されます。
ECを介した海外進出を狙うのであれば、まずはこのような大手サイトから出店を始めて、ノウハウを蓄積していくのも良いでしょう。
また、各ECサイトに関する解説と合わせて、国ごとのEC市場で特徴的な事なども紹介します。
<中国>
CtoCの淘宝网とBtoCの淘宝商城から成り立っていた“タオバオ”から、淘宝商城が独立して名称変更したものが天猫(T-mall)です。
中国のネットショッピングモールといえば天猫というくらいの圧倒的なシェア(63%)を持っています。
日本館という出展もあり、資生堂、イオン、カルビー、ユニクロなどの日本企業が出店しているほか、漢方や酵素などの健康食品も販売されています。
ちなみにCtoCの淘宝网のほうでは80%以上のシェアを占めており、BtoCの天猫と共に、中国EC市場はタオバオがほぼ握っているといって過言ではありません。
もともとは家電の通販サイトでしたが、現在では自転車から蟹に至るまで、幅広い商品を扱っています。
こちらにも日本館があり、人気商品には定番の化粧品の他、ロイズのチョコレート、カシオ、フマキラーなども並んでいます。
BtoCのEC市場の中では20%ほどのシェアを有しています。
中国のECサービスの多くは中国郵政集団という国有事業に配送を委託しているのですが、破損や紛失といったクレームが多いため、京東では宅配部門の「京東到家」という自前のサービスを有しており、その質の高さが評価されています。
<インド>
Flipkartは単独でインド市場の約50%のシェアを占めており、インドを代表するECサイトと言えるでしょう。
インドでは2013年にEC市場が前年比200%の急成長を遂げるなど、非常に注目度の強いビジネスとなっており、しばらくのあいだECサイトが群雄割拠する状態にあったのですが、近年統合の動きが進んでいます。
このFlipkartは2014年に第3位のMyntraを買収した他、インドのメディアVCCircleの記事によれば、インドEC市場で現在22%のシェアを占める第2位のSnapdealはFlipkartもしくはAmazon Indiaとの合併に向けて動いているという話しもあり、もしFlipkartとの合併となればさらにシェアが増えることが予想されます。
※Snapdealの最大投資家でありインドのスタートアップ企業への投資を牽引してきたソフトバンクのアローラ氏が辞任したことによって、ソフトバンクからのこれ以上の投資が見込めないことを受けての動きであると予測されています。EC市場に進出するにあたって、このような日本企業との関わりを知っておいても良いかもしれません。
<インドネシア>
インドネシア最大手のECサイトがTokopediaです。
最初期にイーストベンチャーズ、サイバーエージェントベンチャーズ、ネットプライス、ソフトバンクベンチャーズなどから出資を受けており、日本と関わりの深いECサイトと言えます。
インドネシアでの人気ウェブサイトのランキングでは8位で、WikipediaやTwitterより多くのアクセスを集めています。
インドネシアEC市場の特徴としては、まず決済手段が挙げられます。
インフラの未整備によってクレジットカードの普及率は人口全体の5%程度となっており、決済手段のうち57%が銀行振込、28%が代引き、クレジットカードが7%、その他が8%となっています。
また、SNSのFacebookの利用率が非常に多いため、例えばFacebookページで毎週金曜日にクーポンを発行するなど、Facebookと連動した施策が有効かもしれませんね。
<タイ>
大手通信キャリアのTrueが運営しているタイ最大のECサイトです。
クレジットカード普及率は前述のインドネシアと同じように低く、人口の10%程度と言われています。
しかし、ECサイトのメインユーザーである中間層はクレジットカード所持率も高く、クレジットカード決済が主流でありつつ、ATMからの振込やオンラインバンキングなどが使われている状態です。
タイでは「わからなければすぐ聞く」という文化があり、ECサイトのチャット機能や、あるいは出店者のLINEやFacebookに直接連絡するなどして、購入前に不明点などをしっかり確認することがあります。出店側もタイ語で対応可能な担当者を置くようにしましょう。
ここまでいくつか海外ECサイトをご紹介しましたが、日本企業がこの市場に参入するにはどのようなステップを踏むと良いのでしょうか?
5.越境ECを始めるには? 例:天猫国際に出店する場合
各国の制度やECサイトのシステムによって変わる部分もありますが、今回は中国の天猫への出店を例として解説していきます。
天猫はBtoCのサイトなので、出店に際しては中国国内の営業・販売許可証の取得(法人設立)といったハードルがありました。
この手続が煩雑であったことと、3~4ヶ月かかることから、よほど本腰を入れた出店ではないとやりづらい傾向があったのですが、そのような声に答えてか天猫では2013年9月より天猫国際という新しいサービスを開始しました。
まずはこの天猫国際の出店に必要な条件から確認していきましょう。
<基本条件>
1.中国国外に実際の企業があること。
2.自社ブランドを持っている、ブランドを販売する権利がある、ブランド正規品という証明がある、のいずれかであること。<優先採用条件>
1.海外有名な実店舗を経営している、有名なBtoCサイトを運用している。
2.中国国内に未出店の海外有名ブランドである。
また、必要な書類は以下の通りです。
<必要書類>
1.会社設立証明書(登記事項証明書)
2.納税証明書
3.代表者の身分証明書
4.ブランドの正規品であることの証明書あるいは正規ルートで仕入れたことの証明書
5.中国国外の銀行口座所有証明書あるいは銀行預金残高証明書
6.その他天猫国際が資料請求する場合は、それに応じた資料
販売する商品とサービスに関しては下記の通り定められています。
<商品>
1.天猫国際の正規品保証プランに加入していること。
2.メイドインチャイナの商品ではないこと。
3.中国の税関の正規の検査を受けた商品であること。<サービス>
1.中国語の商品説明があること。
2.阿里旺旺(中国における定番のチャットツール。LINEのようなもの)の問い合わせ窓口を開設していること。
3.商品受注から72時間以内に発送手続きを行うこと。
4.配送追跡ができること。
5.中国国内に返品先が設けられていること。
最後に料金は以下の通りです。
<料金>
1.保証金25,000USドル
2.年会費5,000ドル~10,000ドル(商品カテゴリによって変動)
3.技術サポート費用0.5%~5%(商品カテゴリによって変動)
ここまでで、ずらっと諸条件を記載してきました。
中国での法人設立が必要な天猫に比べれば天猫国際はハードルが低いといえますが、それでもまだ手続きや準備するものなど複雑な印象があるかもしれません。
そこでおすすめしたいのが、日本国内の事業者を活用した出店です。
リクルートライフスタイルの運営するポンパレモールでは2016年夏のサービス開始を目処に、天猫国際への出店・運用代行業者であるC2Jジャパンと提携し、ポンパレモールに出店している企業に関しては初期費用・固定費ゼロでの出品ができる取り組みを始めました。
(出典:株式会社リクルートライフスタイル 2016年6月21日のプレスリリース)
今までの国内向けECとそう変わらない手間で、天猫国際への出品、手動翻訳、決済、発送までを代行できるサービスです。
もちろん代行の手数料はかかりますが、手間を減らしてスピード出店できるという意味で大幅に越境ECがやりやすくなったと言えます。
越境ECを始めるにあたって少なくともノウハウのないうちは、このような代行業者を活用することが一番の近道かもしれません。
6.ECで売るのに向いている商品
ここまでで越境ECの現状からメリットやデメリット、そして実際に越境ECを始めるにあたっての必要書類や、出店代行サービスの紹介などをしてきましたが、いかがだったでしょうか。
最後に、「こんな商品を持っているならぜひ越境ECにチャレンジしてほしい」というものを紹介します。
(出典:観光庁 平成27年度版観光白書)
上の図は”その国から来た観光客の何割が、当該ジャンルの商品を購入したか”の割合なのですが、ほぼこれがこのまま、越境ECで売れるものだと考えていただいて問題ありません。
●お菓子類や食料品・酒・たばこなどはアジア全体から人気があります。
Royceのチョコレートやヨックモックのシガールなどは海外でも有名ですが、100円~200円ぐらいの低価格の商品が人気であるようです。
中国からASEAN諸国までどこにでも言えるのですが、何かのお祝いごとの際に近所に配るものとか、来客の際に出せる小分けされたお菓子などは人気が高いとされています。
●服・かばん・靴などのアパレルも人気があります。
日本の商品はアジアの芸能人が身につけていたりして話題になる場合もありますし、もともと頑丈で長持ちするというイメージもあるので、中間層以上の顧客を狙うのであれば売れ筋商品となる可能性があります。
●化粧品や香水などは中国やタイからの購入が目立ちます。
資生堂、コーセーなどはアジア圏ですさまじい知名度を誇っているので、自分用としてはもちろん、重要な関係の人物(妻、恋人、取引先、親戚)などに渡す贈り物としても評価されています。
まとめ
ご紹介しました商品が代表的な売れ筋商品となりますが、中国ではフマキラーの殺虫グッズが売れていたり、海の向こうで何が受け入れられるのか、やってみないとわからない部分もあります。
SNSでの展開や口コミの発生のさせ方など、大手企業でも意図的に出来ていないことが多いと言われています。
越境ECを使った展開は比較的スタートさせやすい為、多くの企業で導入が検討されていますが、まずはテストマーケティングなどから始めて、展開チャンスがあれば越境ECで本格的に取り組むなど、戦略の幅は広く持つことが求められています。