LINEの海外展開から学ぶ、日本に必要なマーケティング戦略

LINEの海外展開から学ぶ、日本に必要なマーケティング戦略

今年7月に日本企業初となる日米同時上場を行ったLINE。

日本国内で急速にシェアを伸ばし、国内では総人口の半数近い5,800万人が月間のアクティブユーザー数とされています。

LINEは今後海外展開を目標としており、上場によって集めた資金を活用して戦略を推し進めていくようですが、今回の記事では

◇ 海外でのLINEの普及率は今のところどのくらいなのか?
◇ 今後LINEはどのような施策で海外展開を推し進めるのか?
◇ 競合アプリと比較したLINEの強みとは?

といった内容を解説いたします。

LINEってどんな会社がやってるの?

みなさんもご存じの通り、LINEは無料メッセンジャーアプリという形を通して「ライフインフラ」として私たちの生活に深く根付いています。
2011年の東日本大震災をきっかけに、「人と情報・サービスとの距離を縮めること」をミッションに据えサービスが開始されました(HPより)。
現在では単なるメッセンジャーアプリだけではなく、漫画・音楽のようなエンターテインメント面や、ショッピングやポイント、医療といった生活面、キャッシュレスや証券などの経済面と、多方面でサービスが展開されており、まさにインフラとしての役割を果たしています。

そんなLINEですが、「日本の企業なの?」と驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
もともとは、韓国の大手企業NAVERの日本運営法人ハンゲームジャパンとして2000年に設立しました。すでにサービス終了になってしまいましたが、「NAVERまとめ」をご存じの方も多いかと思います。
その後2011年に提供開始したLINEが幅広く普及し、2013年にLINE株式会社に改名されました。

2023年内にはヤフー株式会社の親会社であるZホールディングスとの合併が方針付けされており、日本初の日米同時上場は2020年に廃止。
これからの事業内容や方向性が非常に注目されています。

現状の海外展開の状況と、伸び悩むLINEユーザー数

まず世界の中でLINEのユーザー数がどの程度かを見ていきましょう。

<アクティブユーザー数ランキング>
1位 WhatsApp 9億人
2位 QQ 8億6,000万人
3位 Facebook Messenger 8億人
4位 WeChat 6億5,000万人
5位 Skype 3億人
6位 Viber 2億4,900万人
7位 LINE 2億1,200万人
8位 BBM(BlackBerry Messenger) 1億人
9位 Kakao Talk 4,800万人

(2016年1月時点、Statistaより)

国内では圧倒的なシェアを誇るLINEですが、世界で見ると第7位にとどまっています。

そもそも国外メッセンジャーアプリが進出できない中国のQQとWeChatを除外したとしても、上位のWhatsApp、Facebook、Skypeには大きく差を開けられており、Viberに追いつくまでも暫くの時間が掛かるでしょう。

次に地域別のメッセンジャーアプリのシェアを見ていきましょう。

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少し古いデータとなりますが、この2013年のデータを見ると、欧米、南米においてはWhatsAppのシェアが圧倒的であることが分かります。
LINEもこれらの市場に進出を図っており、スペインでは登録ユーザー数1,000万人を達成しているのですが、それでもやはり「友達が使っているものを使う」というメッセンジャーアプリの特性から、いちど覇権を確立したアプリからシェアを奪うのは難しいようで、LINEとWhatsAppが併用されている状況です。

それではLINEは海外では全く需要がないのかというと、そういう事はなく、国によっては多くのシェアを持っています。

どこの国でLINEの利用者数が多いのか」ということですが、下図をご覧ください。

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(単位:百万人)

2014年のデータなので、タイやインドネシアでの利用者数はここから更に増えているのですが、この時点でタイ・インドネシア併せて6,300万人の利用者がおり、日本の利用者を抜いていることがわかります。

元々の人口が多いアジア諸国で安定してシェアを獲得することができれば、今後5年10年先を見据えて多くのユーザー数を獲得できるかもしれませんね。

海外の競合チャットアプリ

次に、幾つもあるLINEの競合サービスを利用者数順に見ていきましょう。

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<WhatsApp>

2009年にアメリカで生まれたメッセンジャーアプリ。

先程のアクティブユーザー数の比較からもわかるように、世界最大のメッセンジャーアプリです。
スペインで99%、イタリアで93%、ドイツで91%、メキシコで94%と、他の追随を許さない圧倒的なシェアを誇ります。
でも開発したアメリカでは後述のFacebook Messengerにシェアを奪われ、10%以下の利用率となっています。
7年前からサービスが提供されているアプリですが、2016年の2月にはアクティブユーザー数が10億人を突破していたこともあり、今後も存在感を放っていくでしょう。

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<テンセントQQ>

中国のテンセントが提供するアプリ。

中国本土の特に若年層に強く支持されるチャットツールで、SNSや音楽再生管理ソフト、オンラインゲームのポータルなど様々な機能を備えています。
基本的に海外のFacebookやLINEなどのサービスが利用できないため、中国では国内産アプリが普及しています。
中国人出稼ぎ労働者が増えていることもあってか、南米やアフリカでも利用者が増えているようです。

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<Facebook Messenger>

Facebookの利用者の拡大と連動して普及したメッセンジャーアプリ。

Facebookそのものはそんなに使わないけれど、このアプリだけは使用している層も多いようです。
中国を除く世界各国で利用者が多く、先述のようにアメリカではWhatsAppのシェアを奪っており、今後他国でも同じような流れになる可能性もあります。

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<WeChat>

微信、ウェイシンとも言われるアプリ。

QQと同じテンセントが開発したアプリです。
QQの発展型という位置づけのアプリですが、まだQQからの利用者の移行は終わっていません。
ほぼ中国で利用されるアプリですが、FCバルセロナのメッシを起用したCMや、中国人華僑からの口コミで諸外国にも広まっているようです。

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<Skype>

チャットアプリというより通話アプリ、テレビ電話アプリとして有名かもしれません。
マイクロソフトの提供するアプリです。
ユーザーの半数はヨーロッパからの利用者で、日常会話だけでなくビジネスでの利用も目立ちます。

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<Viber>

イスラエルの企業によって開発されたアプリで、現在楽天によって買収され子会社化されています。

ヨーロッパを中心に普及しているアプリですが、インド・アメリカ・ロシアにおいて各3,000万人ほどのユーザーを獲得しています。
こちらもチャットというより、アイコンの示すとおり通話アプリという印象が強いアプリです。

“一人あたり売上高の高さ“が特色のLINE

ここまででお伝えしたとおり、強力な先行サービスが存在している地域ではシェアの奪取が難しく苦戦しているのですが、一方でLINEはその強みを活かして、海外展開から収益を生み出しています。

その強みとは売上高の高さ。LINEと競合を比較すると、ユーザー一人あたりの売上高はLINEが圧倒的です。

<ユーザー一人あたりの売上高比較>

LINE:約6ドル

WeChat:約2ドル

WhatsApp:0.06ドル

(参考:Statista)

売上の多くの部分を占めるのが、LINEの特色ともいえる種類豊富なスタンプの販売ですが、それを強化すべく、LINEではそれぞれの地域に合わせた“ご当地スタンプ”の制作にも力を入れています。

例えばアルゼンチンではLINEのキャラクター“ムーン”は日本同様ののっぺりとした体型ですが、隣国ブラジルではこのキャラクターの受けが悪かったようで、マッチョな体型に修正して現地のスラングをセリフに取り入れたところ売上が増加したそうです。

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(アルゼンチン版:Argentina Moon Special)

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(ブラジル版:Brazilian Moon Special)

この他、インドネシア向けにラマダンをテーマにしたスタンプを発表するなどしており、このようなローカライズ戦略に基づいた施策が売上に結びついていくことが考えられます。

また、スタンプ以外にLINEの売上の軸となっていくと考えられるのが、多角的なサービス展開。

LINEではLINE Pay、LINE Taxi、LINE Musicといった生活密着型のサービスを次々に発表しており、単なるメッセンジャーアプリに留まらない「総合プラットフォーム」として競合アプリと差別化が進んでいます。

海外展開においてもこのような強みは活かされていく予定で、2016年1月1日のLINE代表取締役CEOの出澤剛氏へのインタビューでは、「我々の戦略として、まずはコミュニケーションツールそのものの市場でトップになり、そこに対してプラットフォーム化を進めるという二段階で海外展開を進めています」という発言もされています。

海外の中では「特にインドネシアがトップシェアを狙えるところまできている」(同記事)とのことで、今後、プラットフォーム化されたLINEがどのように受け入れられていくのかが注目されています。

各国市場向けにチューニングしたサービスの開発と、“LINE”にこだわらないサービス提供

プラットフォーム化による差別化を進めるLINEですが、それ以外にも現地に合った施策や、切り口を変えたアプローチで海外展開を進めています。

タイ、インドネシア、欧米の事例を見ていきましょう。

【タイの事例】

まずは先述のプラットフォーム化について、既に成功している国から紹介していきましょう。

それが総人口の約半分、スマートフォン使用者の8割となる3300万人のLINEユーザーを抱えるタイ。

ここでLINEは動画・音楽配信サービスと宅配サービスに参入、それぞれ「LINE TV」「LINE MUSIC」「LINE MAN」というサービス名で提供されています。

まずLINE TVとMusicでは動画と音楽を配信しており、特に前者ではタイ人に人気のあるチャンネルを無料視聴が可能。

決済手段もタイでポピュラーな「ラビット(SuicaのようなICカード・電子マネー)」と提携しており、利便性に優れたサービスとなっています。

「LINE Man」は対象商品の配送を24時間スマートフォンから注文できるサービスで、配送サービス、コンビニ商品配送、フードデリバリーに対応しています。

特にフードデリバリーは5月のサービス開始時点で1万店と提携しており、外食が好まれるタイの現地事情に合ったサービスとして歓迎されているそうです。

【インドネシアの事例】

また、インドネシアでは追加機能の実装で大きくユーザー数を伸ばしました。

インドネシア版LINEに備わっているのは「同級生の検索機能」。

どのような仕組みかというと、LINE上にインドネシアの学校の卒業者名簿が登録されており、ユーザーが自分の母校の名前と卒業年度を入力すれば同級生を検索して見つけることが出来る、というもの。

インドネシアでは2010年に「Ada Apa Dengan Cinta?(邦題:ビューティフル・デイズ)」という、高校生の恋愛を描いた青春ドラマ映画が公開され、歴代最高の興行収入を記録しました。
LINE Indonesiaではこの後日譚として短編映画を作成しYoutubeで公開しています。

動画:https://www.youtube.com/watch?v=56Sx2I1SRfA

映画から10年後、アメリカとインドネシアで離れ離れになっていた主人公2人が再会するというストーリーですが、再会のきっかけとしてLINEの同級生検索機能が使われていて、インドネシアで大きな反響があったようです。

【欧米の事例】

ここまでで、比較的ユーザー数の多いアジアでのLINEの展開を紹介しましたが、絶対的に元々のユーザー数が少ない国、例えば欧米などでは、同様の施策を打ってもユーザーはなかなか増えないでしょう。

とはいっても、LINE株式会社の武器はLINEアプリだけではありません。

LINEの運営する、自撮り機能に特化したアプリ「B612」は公開から2年で全世界累計2億ダウンロードを突破。

月間アクティブユーザー数は半数を超えていると言われており、自撮り(セルフィー)文化が流行っている南米や欧州からのユーザーが過半を占めています。

FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSに、B612で撮影した写真を投稿するユーザーは多く、既に多数のユーザーを獲得しているSNSやチャットアプリと正面から戦うのではなく、既存のアプリと共存出来るアプリを投入することで海外展開を推し進めている例と言えるでしょう。

まとめ

国内市場を見ると絶好調のように思われるLINEですが、チャットアプリとしては海外では苦戦している傾向はあります。

SNSサービスは「友達がやっているから自分もやる」という動機で登録するユーザーが多いために、先行サービスがある国では拡大が難しいのですが、そんな中でLINEは

「ユーザー一人ひとりの売上単価向上」
「国ごとに独自性を強めたサービスの提供」
「主力アプリにこだわらない、新しい切り口の模索」

といった方策で海外展開を推し進めています。

基本的にチャットアプリはどの国でも同様のサービスが提供される中で、LINEはスタンプ機能やプラットフォーム化により国々の事情に合ったサービスを展開可能です。

今後もこのような強みを活かして、既存の競合サービスと差別化された市場開拓を進めていくことが予想されます。

2015年、2016年と続けて、海外、特にアジア市場への展開とプラットフォーム化を進めることを目標としているLINE。

難しい市場に果敢にチャレンジするLINEの今後の動きに注目していきましょう。
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