「思考停止の丸投げ」から「戦略的活用」へ。商社を“機能”として使い倒す、海外輸出の「再設計」ガイド【前編】
本記事は「思考停止の丸投げ」から「戦略的活用」へ。商社を“機能”として使い倒す、海外輸出の「再設計」ガイドの【前編】です。
「海外は商社に任せている。売上も出ている。けれど、このままで本当に良いのか?」とモヤモヤしている経営者・海外担当の方向けに、
私たちCOUXUが現場で見てきた具体的な事例をもとにお話しします。
今回は、なぜ商社任せになりやすいのか、その結果「見えなくなってしまうものは何か」を整理します。
任せ方の具体的な見直しパターンや「任せすぎリスク」をチェックする5つの問いは、
【後編】で詳しく解説します。
海外の話をすると、経営者や海外担当の方から、私たちはほぼ毎回のようにこの一言を聞きます。
「海外は取引している商社さんに全部お任せしています」
そして続けて、こんな言葉が返ってきます。
- 「うちの規模だと、自社でやるのは現実的じゃないので…」
- 「現地のことはよく分からないので、詳しい商社さんに任せておいた方が安心で」
- 「とりあえず海外に出ているだけでも良しと思っています」
実際、食品・飲料・日用品・美容などを扱う中小〜中堅メーカーにとって、限られた人員・時間・ノウハウの中で商社に頼るのは、とても自然な判断です。
スタートとして「商社経由で海外に出る」こと自体は、私たちから見ても決して悪い選択ではありません。
一方で、海外売上が少しずつ増え、取引年数が3〜5年と積み重なってくると、別の感情が顔を出し始めます。
例えば、ある調味料メーカーA社の社長からは、こんな言葉が出てきました。
- 「現地市場ではいくらで売られているのか正直よく分からない」
- 「どの国でどのくらいの量が売れているのか、聞いても“ざっくり”の数字しか出てこない」
- 「このまま全部お任せでいいのか、でも自社でやるのも現実的じゃない…」
このモヤモヤは、A社だけのものではありません。
私たちCOUXUがこれまでご一緒してきた多くの企業で、程度の差はあれ同じような状態に行き着きます。
本記事【前編】では、こうしたモヤモヤの正体を、
「丸投げ構造になりがちな背景」と「商社任せで見えなくなる3つのポイント」 に分けて整理します。
【後編】では、具体的な構造パターンと、商社を「戦略的に活用するための再設計」の考え方を取り上げます。
目次
なぜ多くの企業が「商社任せ」になるのか
1-1. 「商社から声をかけられて始まる」典型パターン
日本の中小〜中堅メーカーの海外輸出は、多くの場合こんな流れで始まります。
- 展示会や紹介を通じて、国内商社から声がかかる
- 「東南アジアの◯◯市場で売りたい」とオファーを受ける
- 条件交渉ののち、商社経由で初回輸出が決まる
- その後も、追加発注ベースで取引が続いていく
現地のマーケットリサーチから販売店開拓、在庫・物流管理、販促まで一通りを商社側が担ってくれるため、
メーカー側は
- 国内と同じように商品供給に集中できる
- 海外向けの専任担当がいなくても、なんとか回る
という意味では、非常に「始めやすい」モデルだと思います。
1-2. 人員・言語・ノウハウ不足から「任せるしかない」構造
とはいえ、「任せやすさ」の裏側には、共通した事情が隠れています。
私たちがご相談を受けるとき、ヒアリングするとほぼ毎回、次のような背景が出てきます。
- 海外専任の人材がおらず、兼務で対応している
- 英語・現地語でのコミュニケーションに自信がない
- 各国ごとの規制・ラベル表示・物流の違いを調べる余力がない
- 海外営業の経験者が社内におらず、何から手をつければいいか分からない
あるお菓子メーカーB社では、海外向けの問い合わせが増え始めたタイミングで、国内営業部長がメール対応と見積りを兼務する形を取っていましたが、 部長は「正直、これ以上自社で抱えるのは無理だ」と感じていたそうです。
そんな時に出展した展示会場で国内の商社からオファーが来ました。条件も悪くなく、規制や物流も「うちで全部やります」と言われたため、社長はこう判断しました。
「それなら全部お任せします。
条件面だけきちんと決めて、あとはうまくやってください。」
こうした状況で「自社で海外を主導する」のは、正直ハードルが高いと感じるのも無理はありません。
そのため、商社からオファーが来た段階で「全部お任せします」という流れになりやすいのは、現場を見ていても当然だと私たちは感じています。
1-3. 商社任せ自体は「悪」ではない。ただし「脳みそ」まで渡さない
ここで強調したいのは、
「商社に任せていること」自体は、決して悪ではない ということです。
むしろ、
- 社内リソースが限られている中で海外に出ていく
- 現地のネットワークや規制対応は、専門家に任せる
という意味では、非常に合理的な判断です。
私たちが支援している企業様の中にも、「商社経由で海外売上比率が10%まで育った」という良いケースもあります。
問題は、
どこまでを商社に預けてしまっているのか、という「線引き」です。
先ほど例に出したお菓子メーカーB社では、、国内の売上は堅調で、商社経由の海外売上も年々伸びていました。数字だけ見れば順調です。
しかし営業部長は、打ち合わせの中でぽつりとこうおっしゃいました。
「海外は◯◯商社さんに任せています。売上自体は伸びているんです。
でも正直、どこの国でどれだけ売れていて、どんなお店で売られているか、よく分からなくて…。
うちが口を出していいのかも分からないし、なんとなく不安なんですよね。」
こういったケースでも分かる通り、商品仕様や出荷条件といった「手足」の部分だけでなく、
- どの国でどのチャネルを伸ばしていくのか
- どの価格帯でどのポジションを取りたいのか
といった「戦略(脳みそ)」の部分までも、実質的に商社に預けてしまっている状態でした。
私たちはご相談をいただいた中で、こうお伝えしました。
「商社には『手足』として動いてもらい、『脳みそ』は自社で持ちましょう。
戦略(脳みそ)まで商社に預けてしまうと、コントロール不能な状態に陥ります。」
この線引きができていないと、
- どの国・どのチャネルを伸ばしたいのか
- どの価格帯でどのポジションを取りたいのか
といった根本的な設計まで、すべて商社任せになってしまいます。

ここからは、私たちが現場で見てきた「商社任せのままで見えにくくなってしまう3つのポイント」を整理しながら、
どこまでを「機能」として任せ、どこからを「自社の脳みそ」として握るべきかを考えていきます。
「商社任せ」のままでは見えなくなる3つのもの

2-1. ① エンド顧客と市場のリアル
商社を通じて卸していると、どうしても情報が「商社止まり」になりがちです。
どんな現場でそれが起きるのか、具体的なシーンで見てみます。
*シチュエーション例
ある缶詰メーカーでは、日本国内では「ご飯のお供」として売れている商品を、商社経由で東南アジアに輸出していました。
初回取引から数年経って、社長が現地のスーパーを訪れたようです。そこで目にしたのは、社長の想像とはまったく違う売り場だったようです。
- 商品は「お酒のつまみ」コーナーに置かれている
- 辛味の強いローカルおつまみと横並びで陳列されている
- POPには「ビールに合う!」と大きく書かれている
社長は出張後にお会いした際、こうおっしゃいました。
「うちはずっと“ご飯のお供”としてパッケージやコピーを考えてきましたけど、この国では“おつまみ”なんですね…。それなら、提案の仕方も変えないといけないですね。」
このように、
- どんな販売店で
- どんな棚の位置で
- どんな競合商品と並べられ
- どんな用途で購入されているのか
といった“生活者のリアル”は、商社がわざわざ詳細にフィードバックしてくれない限り、見えづらくなります。
このシチュエーションが良いか悪いか、という話ではありません。
重要なのは、こうした「現地での使われ方の違い」を知らないままだと、
- パッケージリニューアルの方向性
- 新フレーバー / 新商品の開発
- 現地向けの提案資料づくり
といった打ち手が、どうしても「日本目線」のままになってしまう、ということです。
2-2. ② ブランド価値と価格コントロール
2つ目は「価格」と「ブランドの位置付け」です。
どの国で、いくらで、どのポジションで売られているかを把握していないケースは、現場では珍しくありません。
冒頭でも登場した調味料メーカーA社では、「現地の高級スーパー向け」という想定で輸出を始めていました。
ところが、数年後にとあるECサイトを確認してみると、次のような状況が分かりました。
- 日本の希望小売価格から見て、大幅な値引き価格で販売されていた
- 想定していなかったローカルの低価格ブランドと横並びで置かれていた
- 「週末セール」の常連商品のように扱われていた
その画面を見た社長は、しばらく沈黙したあと、こうおっしゃいました。
「これ、国内のお客様や取引先には見せられないですね…。
せっかく積み上げてきた“ちょっと良いもの”というイメージが、崩れかねない。」
この状態が続くと、
- 国内価格とのバランスが崩れる
- ブランドの“格”が下がる
- 将来的にプレミアムラインを出しづらくなる
といった中長期の影響が出てきやすくなってしまいます。
私たちがA社と一緒にまずやったことは、難しいことではありませんでした。
- 主要国・主要チャネルの販売価格帯を一覧にする
- 「この価格帯より下には落とさない」というラインを決める
- そのラインについて、商社と年1回必ず話し合う場をつくる
それだけでも、「いつの間にかブランドのポジションが崩れていた」という事態はかなり防げるようになります。
2-3. ③ 中長期の戦略オプション
3つ目は、もう少し長い目で見た「選択肢」の話です。
- どの国が伸びているのか
- どのチャネル(オフライン/EC/SNS)が有望か
- 3年後、5年後に、どのような形で海外売上をつくっていきたいのか
こういった中長期の戦略を描くためには、現状の「海外売上の構造」を把握していること が前提になります。
しかし、商社任せの状態が続くと、A社やB社、その他の企業でも起きていたように、
- 管理画面上の海外売上が「海外売上=◯◯商事への売上」の一行でしか管理されていない
- 国別・チャネル別の内訳が分からない
- どの市場に投資すべきか / 次のアクションを取るべきか判断材料がない
という状況になりがちです。
実際、A社の社長は当初、経営会議で「海外を伸ばしたい」と話しながらも、
「どの国から伸ばすべきか」という問いに対しては、感覚的な答えしか出せない状態でした。
私たちがA社に提案したのは、次の3ステップです。
- まずは直近1〜3年分の海外売上を、「国別×チャネル別」にざっくりでも良いので分解する
- 売上だけでなく、「粗利」「伸び率」の感覚値も、分かる範囲でメモしておく
- その一覧をベースに、「どの国・チャネルを伸ばしたいか」のたたき台をつくる
この棚卸しをしただけで、A社の経営会議では、
- 「まずはA国のECにもう少し投資を厚くしよう」
- 「B国のオフラインは、今は商社任せのままで慎重に様子を見よう」
といった、具体的な議論ができるようになりました。
構造が見えれば、初めて「選択肢」が生まれます。
見えないままでは、いつまでも「丸投げ」から抜け出せません。
ここまで読んで「うちも少し心当たりがあるかも…」と感じた方へ。
次回【後編】では?──「知る」で終わらせず、行動を変えるために
前編では、私たちCOUXUが現場で見てきた事例をもとに、
- なぜ多くの企業が「商社任せ」になるのか
- 商社任せのままでは見えなくなる3つのポイント
を整理しました。
ただ、「なるほど」と理解するだけでは状況は変わりません。
私たちがこの記事で目指しているのは、「単なる知識」ではなく「行動を変える提言」です。
もし、ここまで読んで少しでもモヤモヤを感じたら、今日できることを1つだけ決めてください。
- 社内で、「海外売上って、◯◯商事さんへの一行でしか見ていないよね?」という話題をあえて出してみる
- 商社からの直近1年分の請求書・レポートを1つ開き、「国別に分解できないか?」とメモしてみる
- 経営メモに「商社=手足(機能)/自社=脳みそ(戦略)」と一行書いて、机の横に貼っておく
小さな一歩に見えるかもしれませんが、私たちは現場で、こうした一歩からしか変化は始まらないことを何度も見てきました。
後編の記事では、今回の内容を踏まえて、
- 海外輸出の3つの基本構造パターン(丸投げ型/役割分担型/自社主導型)
- 自社の「任せすぎリスク」を診断する5つの問い
- 商社を“戦略的”に活用し、主導権を握るための具体的な第一歩
を、私たちCOUXU社が実際に使用している具体的なフレームを活用しながら整理していきます。
「商社任せそのものが悪い」のではなく、
「何を任せて、何を自社の“脳みそ”として握るか」 をどう設計するか。
その考え方を、一緒に整理していければと思います。
